三浦弘行九段冤罪事件について

標記の件、自分の考えを述べてみたいと思います。なお詳細な経過については将棋ワンストップさんに詳しいです。そちらの方をご参照下さい。

まず最初に言っておきたいのは、12月26日に行われた第三者調査委員会(但木敬一委員長)の報告において、所謂ソフトを使ったカンニング不正について、「疑惑の根拠として指摘されたものはいずれも実質的な証拠価値に乏しく、不正に及んだと認めるに足る証拠はないと判断」とし、三浦九段は不正を行っていなかったことが認められました。ここまでの経緯を知らない将棋の世界から遠い人はまだ三浦九段をクロと考えてる人が多いかもしれませんが、完全に三浦九段は潔白です。この点強調したいです。
10月12日に不正疑惑で出場停止処分及び竜王戦の挑戦権を剥奪されてからおよそ三か月近く、三浦九段は世間からクロ扱いされ、棋士の命である対局を奪われました。特に竜王戦の挑戦権は三浦九段の棋士人生でも滅多に機会があるものでなくまたタイトルを獲得する大きなチャンスだったわけです。それを無実の罪で剥奪された。この間に受けた損害、名誉の棄損、本人及びご家族にかかった精神的負担は計り知れないものがあったと思います。なるべく早くこれらの損害が回復、補償され、三浦九段そしてご家族の負った心の傷が癒えることを心から願います。

さて本題の自分の思いですが、端的に言えば「公益社団法人日本将棋連盟(以下「連盟」)への怒り」ということになります。これまでも連盟は名人戦移管問題、女流棋士独立騒動等様々な問題を起こしていますが、本件はそれを上回る史上最悪、最低のものです。具体的に何に怒っているのかを以下挙げていきます。

(1)金(スポンサー)のためなら棋士個人を切り捨てるという姿勢
本件で最大の問題は、多数の人が指摘していますが、ソフト不正利用の疑いのみで三浦九段を拙速に処分し竜王戦の挑戦者を差し替えして強行したことにあります。第三者調査委員会の翌日(12月27日)に行われた連盟の会見の質疑(全文を読むのには要ログイン)で青野理事が「その時点では、挑戦者を代えるか、週刊誌の袋だたきに遭うか、あるいは竜王戦を延期していただくか。三つの選択肢だった。」と述べ、最初の選択肢である「挑戦者を代える」を選択したわけですが、この時点で三浦先生の問題は単なる疑惑に過ぎず確証が全くなかったことを考えれば、一般の目から見てこれが一番非常識な選択なのは自明です。「疑わしきは罰せず」は最大の原理原則ですから。
結局この判断は竜王戦のスポンサー(読売新聞)の体面、そして費用の問題を重視したのだと思います。週刊誌に疑惑の挑戦者と報道がされれば竜王戦の看板に瑕がつく、延期を行えば追加の費用が掛かる。そのため確たる証拠もない状態で個人を処罰した。吐き気がしますね。

(2)全てが密室裁判
三浦九段の処分の直接の理由として三浦九段から休場の申し出があり、その休場届が期限までに出されなかったことが挙げられています。(この経緯についてもその期限が拙速に設定されたこと(意思表示がされたとされる日の翌日)、また後日撤回されたが受理されなかった等問題はあります。)第三者委の報告では三浦九段から休場を申し出たという事実認定になっていますが、三浦九段側は理事等多数対一の密室の場で竜王戦が中止に追いやられた事の責任を一方的に攻め立てられ休場を受諾するように言われて仕方なく受諾したとしています。一方連盟は強要の事実はないと否定しており真相は不明です。
しかし理事会側が挑戦者交代を前提に三浦九段を呼び出し密室で多対一で追い詰めたことはほぼ間違いがなく。こういう非人道的なことが行われたことは大変悲しいことです。当日は谷川会長はじめ島、青野と言った理事の面々、更に渡辺竜王も同席していたとのこと。この実績十分なそうそうたる面子がヤクザまがいの密室魔女裁判。三浦先生のその時の気持ちを考えると溜まらないです。

(3)情報公開ツールは「週刊文春」そして「だんまり」
これだけ将棋界に大きな影響を与える重要な処分を実施したというのに、連盟公式ページでの発表は以下のみです
10月12日 第29期竜王戦七番勝負挑戦者の変更について
11月4日 第三者調査委員会の開催について
12月26日 第三者調査委員会による調査結果について
挑戦者変更を報じてから、その根拠(証拠)やその処分決定に関する経緯説明は連盟公式ホームページでは全くなされませんでした。一方で現理事である島理事、告発者である渡辺竜王、久保九段等の談話等を基に構成されたした記事が週刊文春を通して発表されました(10/19.20)。これはありえない。週刊誌が情報公開ツールとかあり得ない。
一方第三者委員会を設置してからの連盟は「だんまり」に切り替わります。第三者委の進捗については「その都度報告する必要があるのか」と連盟担当者が逆切れした記事も出たりました。第三者委員会がいつ結論を出すのかの見通しが全く見えず、その間も三浦九段の処分は解かれず不戦敗などの不利益は増大してファンはやきもきさせられたのですがそういったことはお構いなしです。所属棋士にもかん口令が出た模様で、臭いものに蓋、とにかく現状行われている竜王戦だけは成立させるという連盟の意図が透けてみて卑しく感じました。

(4)渡辺明竜王の一連の行動に失望
本件の起因者の一人であると言える渡辺竜王。「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪(はくだつ)されても構わない」と理事会に述べたと伝えられています。これが事実なら連盟が拙速な判断をした背景に竜王の意図が介在しなかったとは考えにくいです。公式ブログでの説明ではあくまでも不正を告発したのみで処分の意思決定については関与を否定しています。しかしこの弁明は苦しいと言えるでしょう。
またそもそも連盟が処分を急いだ理由に挙げている、「週刊誌に疑惑が報じられる」という認識の大元となる情報のリーク者としても疑いを持たざるを得ません。第三者委の結論からそもそも当時の疑惑自体の存在も疑問視されており、そうなると疑惑を抱いていた関係者は限られます。文春の最初のスクープは渡辺竜王の独占インタビューでした。記憶に新しいです。
将棋界において現役タイトルホルダーの発言力、影響力は計り知れないものがあります。自分の発言が影響を持つことは責任を持つことの裏返しでもあります。竜王戦においては金属探知機の設置も予め決まっており不正の行われる余地はありませんでした。別の解決法はあったはずです。義憤や個人的感情を傍に置いて合理的な思考でベストな解決方法を探ることができる人材と考えていただけに失望しました。

(5)そして今もなお三浦九段を傷つけ続ける日本将棋連盟
白が立証され、今後は三浦九段の受けた損害を原状回復、そして賠償していくステージに入りました。しかし連盟の初動は想像以上に酷い現状です。簡単に箇条書きにしますと
竜王戦について「今期タイトル戦は無事に終了した」と強調(無事に?はあ?)、「三浦九段には来期、改めて予選に出てもらうことになる」と発言等、その他の棋戦もA級順位戦の地位保全(但し来期はB1級よりの昇級者よりも低い11位扱い)以外は基本的に過去に遡及しない姿勢を表明
・処分明けに出演が予定されていた1月3日のYAMADAこども将棋大会、1月4日の上州将棋まつりの三浦九段の出演予定を連盟側が承諾なしにキャンセル
一点目はまあ最初の連盟のスタンスですから今後交渉の余地もあるのでしょう。ただ正直まともに償うつもりはなさそうですね。二点目は論外です。こういうのって優越的地位の濫用で法律的にも危ないのではないですかね?
無実の罪で処分された三浦九段に加害者側の連盟は誠心誠意尽くさねばなりません。しかしその誠意のかけらも見えません。逆に今もなお加害を続けています。残念です。



もっともっと書きたいことがありますがここで一旦〆ます。
正直連盟に誠意が全く感じられないので今後の補償の交渉も難航すると思います。個人的にはもう訴訟沙汰に持ち込んでしまってはっきり責任追及する方がいいと思っていますが。こればかりは三浦先生と弁護士さんが決められることなのでその推移を見守りたいと思います。

最後に繰り返しになりますが、できるだけ早くに三浦九段の負った損害が回復、補償され、三浦九段そしてご家族の負った心の傷が癒えることを心から願います。