東野圭吾「新参者」

新参者

新参者

昨年発売初日(9月)に買って、年越すまで積読にしてた本です。
理由は「加賀恭一郎」シリーズだから。東野の出世作「卒業」(86年)では大学生だった彼は、シリーズ7作目の「赤い指」で元警察官の父との確執という大きなテーマに終わりを向かえ、もう次はないものと思っていました。
そこにこの続編なので読む前からハードルが上がりまくって、読むのが怖いと思ってたんです。
しかし、それは全くの杞憂でした。
本作は一話完結型の連作短編であり、それでいて話が進むたびにメインとなる女性絞殺事件の全貌が分かり、最終話で解決されるという形を取ります。特筆すべきは各話にカメオ的に被害者の女性を登場させることで、彼女の人間性が明らかになり、「なぜ彼女が殺されることになったのか」というホワイダンイットの部分の深みを増しているところです。
各話の謎の作りも丁寧で、様々な形の家族愛(少しネタバレすみません)をすらりとした筆致で描いています。あと「赤い指」でも感じたのですが「無自覚な悪」の描写が素晴らしい。宮部みゆきさんも最近はこのテーマが多いですし、やはり世相を見られている作家さんはこういうところに一番関心が行ってるということでしょう。嫌な世の中ですね。
あと舞台となる人形町に「新参者」として佇む加賀恭一郎の姿は何とも言えず美しい。この作だけだと超人ぶりが鼻に付く人もいるかもしれませんが、その方は「卒業」と「赤い指」を是非。非常に人間臭いですから、彼。少なくとも「赤い指」は読んでほしいです。
卒業 (講談社文庫)

卒業 (講談社文庫)

赤い指 (講談社文庫)

赤い指 (講談社文庫)

最後に一つだけ難をつけるなら最終話は若干あざといかなという気もしないでもないです。(そこまでお見通しってことはないだろという突っ込み(これも半分ネタバレスマソ)入れたい)しかし現代ミステリーの最高峰の一品であることは私が保証します。

なお主演阿部寛で早速ドラマ化されるようで。原作レイプはごめんですよ(笑)