強い心と知識 第23期竜王戦七番勝負第6局 ▲羽生善治-△渡辺明

渡辺明の居飛車対振り飛車 I 中飛車・三間飛車・向かい飛車編 (NHK将棋シリーズ)

渡辺明の居飛車対振り飛車 I 中飛車・三間飛車・向かい飛車編 (NHK将棋シリーズ)

渡辺明の居飛車対振り飛車 II 四間飛車編 (NHK将棋シリーズ)

渡辺明の居飛車対振り飛車 II 四間飛車編 (NHK将棋シリーズ)

四間飛車に対する急戦策は、玉が薄いぶんだけ勝つための課題が多くなります。一手違いの終盤を読み切る力や、全軍総動員で振り飛車側の大駒を押さえ込みにいく手厚さ。そして自身の読みを信じる強い心と知識。(以下略)」(渡辺明居飛車振り飛車Ⅱ(四間飛車編)(NHK出版)P24より抜粋)
これは僕が将棋を勉強するためのバイブルである、渡辺明竜王の棋書からの抜粋です。所謂対抗形についてほぼ網羅されていると言ってよく、これが完全に理解できるレベルに達せられたらアマ初段の壁は脱出できるのではないかと思います。
さて、最強の挑戦者である羽生三冠を迎えた、今期竜王戦が昨日決着し、渡辺竜王が4勝2敗で防衛。竜王位七連覇を果たしました。この最終局である第六局、また全体のシリーズの流れについて僕なりに総括したいと思います。
まずシリーズを通しての印象ですが、終始局面を支配していたのは渡辺竜王の側との印象を持ちました。特に第五局、力将棋の構想力勝負で圧倒し、力を溜めに溜めて、一気に羽生陣を崩壊させた(勝負的にはその後もつれましたが)のが印象的です。また後手番(二、四、六局)では「王者の一手」と呼ばれる二手目△8四歩(先手のどんな作戦でも受けるという意思表示)を指して二勝一敗(内容的には三勝)ですので、今回の防衛は非常に価値の高いものだと思います。
あくまで現時点であり、また8時間二日制という舞台という前提が付きますが、渡辺>羽生は間違いないでしょう。渡辺竜王には同じ二日制の名人戦での羽生名人への挑戦の可能性が残っており、もし実現した場合は奪取の可能性が高いと思います。
話を戻して第六局ですが、後手番の渡辺竜王は角換わり腰掛け銀から専守防衛の形を取りました。竜王自身後手番矢倉でも専守防衛の構想で好結果を残しており、その趣旨に沿ったものでしょう。感心したのは118手目△4七歩成と、それまでの「受け」から「攻め合い」にギアチェンジした判断力。これには伏線があって同じく渡辺後手番の第四局、同様に一方的に受ける展開から攻め合いに転換した判断が、逆転負けに繋がった過去がある。こういうことがあると普通腕が縮こまる。しかし竜王の強さはここで「自身の読みを信じる強い心と知識」(冒頭文より)を発揮。思い切りよく踏み込みました。多分勝ち方は他にもあるのでしょうが、この道をあえて選んだところに竜王の強さを感じました。
僕は羽生ファンなので、羽生先生をこれだけ完膚なきまでに叩き潰したんだから、正直他の棋士にころころと負けてしまうのは勘弁してよと思うところもあります。ただ渡辺竜王は相手なりに力を発揮するタイプなんでしょうね。まずは羽生越えを果たしたので、次は棋界制覇を目指して、他タイトル奪取を期待したいところです。